鎌倉の住宅

敷地は鎌倉市の中心市街地から徒歩20分ほどの場所に位置している。初めてこの土地を訪れたとき、圧倒的な包容力をもつ自然環境を、ありのまま享受する建築をつくりたいと思った。
この住宅の中心には、関係性の余白を抱えた「広間」が据えられている。かつての民家において、外と内、人と人、作業と生活が交錯していた土間を、ここでは単なる動線や緩衝帯ではなく、人と人との関係をやわらかく編み直す場として再解釈した。それは、他者と共に生きようとする意志の表明であり、雑音のない世界を求めるのではなく、雑音の中で生きることを引き受けようとする姿勢でもある。架構や仕上げには木、ガラス、左官、金属など、多様な素材を用いた。それぞれの素材がもつ手触りや、時間差を伴う質感の重なりは、使い手と共に変化していく生活を寛容に受け止める。平面の大小と天井の高低を掛け合わせた立体構成は、単なる類型の集まりではなく、移動や滞在、視線の動きなど、身体感覚に富んだ空間経験をもたらすことを意図した。踊場は広間へ半円状にせり出し、浮遊感を与え、裏山からの制約によって斜めに切取られた平面形状が、整然とした形式をほぐし空間に柔らかさを加えている。階段からは学校に向かう子どもの様子が見られ、広間からは庭越しに隣人とさりげない挨拶が交わされる。私的な場所でありながら、他者の気配と環境のゆらぎを受け入れ、日々を積み重ねていくこの住宅は、「小さな公共圏」へのささやかで確かな建築的応答である。

2023.01~2024.08
計画敷地:神奈川県鎌倉市
主要用途:個人住宅
家族構成:夫婦+子供 
敷地面積:156.03 ㎡
建築面積:43.54 ㎡
延床面積:86.70 ㎡
構造  :木造
高さ  :7.200m
階数  :地上2階
設計監理:渡邉圭+山梨綾菜
     flat class architects
構造設計:多田脩二構造設計事務所
施工  :株式会社栄建
撮影  :小川重雄
受賞  :第67回神奈川県建築コンクール

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